人権コラム
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2024年07月09日
子育ても介護も労働者の人権
子育ても介護も労働者の人権
毎年7月末には、前年度の男性の育児休業取得率が厚生労働省から公表されます。2023年度はどうでしょう。20年前の2003 年度はわずかに0.44%でしたが、2022年度は17.1%と過去最高でした。父親が子育てにかかわるのは当たり前という意識が高くなってきているようです。一方でパタニティハラスメント(以下「パタハラ」)の訴えも増えてきています。男性労働者が育児休業や子の看護休暇・時短勤務などの制度を希望したり利用したことを理由に同僚や上司からうけるハラスメント(いやがらせ)がパタハラです。育児・介護休業法25条において、このようなハラスメントは禁止されています。
残念ながら、父としての制度利用に対して、「職場に迷惑がかかる」と考えている管理職が依然として多いようです。子育て世代の子育て意欲が高まっても、管理職世代とは意識の差が縮まらないのかもしれません。意識の差は、学校教育の違いが原因の一つのようです。現在の43〜44歳以下の男性は中学校や高校で家庭科を学んでいます。ちょうど、野球選手の松坂大輔さんにちなんで「松坂世代」と呼ばれる年代です。それより上の年代では、中学・高校では女子が家庭、男子が技術と別れて受けていたのです。1993年以降、男女で同じ内容を学ぶことになりました。国連の女性差別撤廃条約を批准したためです。
育児・介護休業法の制定も国連のILO156号条約(家族的責任を有する労働者条約)を批准したことが契機となっています。家族的責任とは、扶養が必要な家族をお世話する責任です。育児や介護を性別に関わりなくすべての労働者が果たせるよう支援する措置が雇い主に求められています。自分の大事な家族のお世話をすることは労働者の人権として認められているのです。
子育てだけでなく、家族の介護も労働者の人権です。管理職世代の皆さんも介護については身近ではないでしょうか。大手商事会社の伊藤忠商事では、管理職が介護で離職することへの危機感から、2015年頃から両立支援制度を整備してきました。現在では、ワークライフバランスが実現した環境が整っており、子育てや介護など家族的責任を抱えない社員も自己研鑽に時間を使えるなど、会社全体で支えあう環境がメディアでも取り上げられています。経済とともに人権感覚もグローバル化していかなければなりません。子育てや介護を労働者の人権として認められる職場には、働く人すべてが安心感や誇りを持てるのではないでしょうか。
福岡ジェンダー研究所 倉富史枝