人権コラム
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2025年01月16日
「アンコンシャス・バイアス」に影響されない組織づくりを
「アンコンシャス・バイアス」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。もともとは心理学の概念で、人が自分でも意識せずに持っているような、特定の人や集団に対する偏った見方や考え方のことです。
人間の脳は、膨大な量の情報を処理するために、情報を省略したり単純化したりして理解しようとします。それ自体は人間がもつ適応のメカニズムですが、単純化されたイメージはしばしば不完全だったり偏っていたりするため、知らず知らずのうちに偏った見方をしてしまう場合があります。
アメリカのオーケストラでは、オーディションの際に演奏者の姿を隠す方式を導入したことで、女性の合格率が大きく高まったといいます。経歴や資格が同じ内容の履歴書を企業に送付したところ、女性の名前より男性の名前の方が企業からの返信が多くなったとの研究結果もあります。いずれの例も、性別についての事前情報が判断を歪めたのだと考えられます。
このように、公平なつもりでいながら、アンコンシャス・バイアスによって実際には偏った評価や判断をしてしまう恐れがあります。しかも、無意識であるために自分で気づいてコントロールすることが難しいばかりか、偏った判断を「実力による評価」「公平な判断の結果」などと誤認してしまう可能性があるのです。
アンコンシャス・バイアスは誰でも、たとえ意識のうえでは「差別はいけない」と考えている人でももちうるものです。「女性もリーダーに登用するべきだ」「男性も積極的に家庭に参画した方がよい」と考えている人が、無意識では「女性はリーダーに向かない」「男性は家庭より仕事を優先するべき」というアンコンシャス・バイアスをもっていた場合、本人も気づかないままに女性リーダーや家庭参画に熱心な男性の実績や能力を不当に低く評価してしまうかもしれません。
アンコンシャス・バイアスに気づくことは難しいことではありますが、影響を小さくするよう取り組むことは必要です。個人としてできる対策としては、何かを判断する際に「なぜそう考えたのか」を振り返ったり、多面的な視点から物事を評価したりすることなどがあげられます。
組織としては、研修会の開催や複数人での評価などバイアスについてチェックできる環境や機会をつくること、客観的な評価指標を設けること、意思決定の場に多様な人が参画できるようにし、特に少数派の人が意見を言いやすい環境をつくることなどが重要です。
NPO法人福岡ジェンダー研究所理事 武藤桐子