人権コラム

  • 2025年04月04日
    企業に求められるカスタマー・ハラスメント対策

 2025年4月1日、東京都や群馬県、北海道などで、カスタマー・ハラスメント(顧客・利用者による迷惑行為)を防止するための条例が施行されました。
 近年カスタマー・ハラスメントが社会問題化していることを受け、厚生労働省が法案の検討を始めたことが報じられていますが、それに先駆けて地方自治体が対策を打ち出した形です。愛知県や埼玉県、栃木県、三重県などでも条例制定が進められています。
 福岡県内においても、福岡県が県職員向けのカスタマー・ハラスメント対応マニュアルを策定したり、在宅医療・介護職員のための相談センターを開設したりしたほか、一部の市町村でもカスタマー・ハラスメント対策が導入されつつあります。今後、同様の動きは全国的に広がっていくことでしょう。
 東京都の条例では、カスタマー・ハラスメントを「顧客等から就業者に対し、その業務に関して行われる著しい迷惑行為であって、就業環境を害するもの」と定義しています。事業者に対しては、カスタマー・ハラスメント防止への主体的かつ積極的な取り組みや都が実施する防止施策への協力、就業者がカスタマー・ハラスメントを受けた場合の安全確保や顧客への適切な措置の実施などが努力義務として課されています。また、「就業者」には、いわゆる従業員だけではなくフリーランス、ボランティア、インターンシップ生や家族従業者などを含むとされており、規模の大小を問わず事業主の取り組みが求められているといえます。
 厚生労働省の調査では、カスタマー・ハラスメントを受けたことによる心身への影響として、「怒りや不満、不安などを感じた」63.8%、「仕事に対する意欲の減退」46.1%、「眠れなくなった」16.7%、「会社を休むことが増えた」5.7%、「通院や服薬をした」3.8%など、様々な影響があげられていました。カスタマー・ハラスメントにより就業者の安全や安心が脅かされることは人権侵害であることはもとより、業務パフォーマンスの低下や離職者の増加など、組織にとっても多大なマイナスの影響を及ぼします。
 当然のことながら、顧客・利用者からのクレームや要求には正当なものもあり、すべてをカスタマー・ハラスメントとして扱うことは適切ではありません。だからこそ、個人に判断や対応を任せるのではなく、あらかじめカスタマー・ハラスメントの基準や対応の手順を明確に取り決め、組織として対応することが重要です。そのような取り組みは、心理的安全性のある強い職場づくりにもつながっていくことでしょう。

NPO法人福岡ジェンダー研究所理事 武藤桐子

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