人権コラム

  • 2019年10月29日
    人権教育の「基本原理」

以前、ある自治体が大規模地震警戒・避難準備の緊急放送を流した(間もなくそれは誤作動だったと訂正された)が、その間に実際に避難の態勢をとった住民は17.5%に過ぎなかったという新聞記事があった。研究者はその要因について次の三点を指摘していた。

1.正常性バイアス(「たいしたことないだろう」と、危機を過小評価する傾向)。

2.同調性バイアス(「みんなそうしてない(そうしている)から私も」と、周囲に合わせる傾向)。

3.凍りつき症候群(とっさのことで体が動かなかった、仕方なかったとする傾向)。

 防災教育のポイントのひとつは、1、2、3から抜ける力を育てること。いざというときに取り乱して判断を誤らないための「心構え・頭構え・身構え」をつくっていくこと。この課題意識は、人権教育の課題意識とも共通するものだ。

1、2、3をまとめて「考えることをあきらめる習慣」と名づけてみる。人権教育は、この“考えない→判断しない→責任をとらない”習慣に対して、“気づく→考える→行動する”という過程や環境を対置し、それを「(人権教育の指導法の)基本原理」として大切にしてきた(参考;「人権教育の指導方法等の在り方について[第三次とりまとめ]」(2008))。どんなに人権侵害の現実が厳しくても、自然に社会問題・人権問題になるわけではない。「それは問題だ」と気づく人がいて、考える仲間がいて、解決すべき社会問題・人権問題であるという認識が広がり、「なんとかする」ための行動が生まれる。それまでの人権関係諸法律がそうであったように、近年の「障害者差別解消法」、「ヘイトスピーチ対策法」、「部落差別解消推進法」等々も、問題化→課題化→社会化というプロセスの積み重ねを経て実現したものだった。

 気づく人や考える仲間や行動がなかったら、問題は「ない」ことになってしまう。私たちを取り巻く「思考停止→判断停止→責任回避」の雰囲気から抜けて、持続可能な社会づくりにつながるアクティブな学びを「今・ここ・自分」から始めたいと思う。

公益社団法人福岡県人権研究所事務長 谷口 研二

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