人権コラム

  • 2021年04月30日
    懐かしのハリウッド映画に潜む「トゲ」

『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(1985年)世界的な大ヒットとなった映画。発明家ドクの作った車型タイムマシーン「デロリアン」に乗って、時空を飛び越えるマイケル・J・フォックス。『バック…』は、学生時代の思い出とともにある。とにかく楽しかったな!

ところが、映画評論家の町山智浩さんの著書『最も危険なアメリカ映画』(集英社文庫)によると、『バック…』3部作や『フォレスト・ガンプ/一期一会』(1994年)といったロバート・ゼメキス監督の映画には、醜悪なメッセージが込められているのだという。それは、「アメリカ最強!」だった1950年代への郷愁であり、それを崩した黒人公民権運動や、経済成長でアメリカを脅かすようになった日本への嫌悪感だ。
『フォレスト…』の主人公、フォレスト・ガンプは1944年、アメリカ南部アラバマ州に生まれた設定だ。50年代、60年代のアラバマと言えば、人種隔離政策と黒人公民権運動だ。レストランの席や公衆トイレは、法律で黒人用と白人用に分けられていたが、仕事帰りで疲れていた黒人女性が、バスの白人優先席に座り続け逮捕されたのがきっかけで、公民権運動家のキング牧師がバスのボイコットを呼びかけ、大きなうねりになっていく。
ところが、『フォレスト…』にはキング牧師は登場しない。町山氏の著書によると、ゼメキス監督は「映画全体のトーンと合わないから」と答えているという。
『バック…』が作られた80年代には、黒人市長が当たり前になっていた。しかし、タイムマシーンを奪った宿敵ビフによって変えられた未来の街は、黒人だらけの荒廃したスラムになっている。
確かに……。楽しく見た映画だが、アメリカが強かった50年代への愛着が骨になっている映画だから、そこかしこに今ではまずい表現がちりばめられている。
「当時は許されていたんだから」
「クリエイティブな作品に、トゲはつきもの」
そんな声も聞こえてきそうだが、町山さんの提示する事実のあまりの多さに、愕然とする。『フォレスト…』では、ガンプの故郷を象徴する曲として「スイート・ホーム・アラバマ」が使われているが、この曲は後半で、キング牧師を弾圧した州知事は地元で「愛されている」と歌い上げているという。
ほかにも、戦前のディズニー映画が東京への空襲をあおっていたこと。黒人差別のテロ団体KKKを賛美する映画『国民の創生』のヒットによって、いったんは消滅していたKKKが復活してしまったこと――。この本に出てくるハリウッド映画のダークサイドは、知らないことばかりだ。
本の帯には、「気づいてしまったらもっと面白くなる 危険な映画評論」というコピーが載っている。
読後にゼメキス監督作品を見たら、印象が一変してしまっていることを保証する。それは、悲しく、寂しいこと? だが、それも含めて、アメリカ映画なのだ。

RKB毎日放送 デジタル報道担当局長 神戸金史

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